ペルーの作家バルガス=リョサの新作がこのほどスペインの出版社から刊行された。その旺盛な創作欲は、七十歳になった今も変わらない。フセイン後のイラクのルポルタージュや、印象派の画家ゴーギャンの足跡を追う写真集、フランスの文豪ビクトル・ユゴーの作家論などをあいついで発表してきた。そして今度は、『バッド・ガールのいたずら』という一風変わった恋愛小説である。もっぱら記憶と想像力をたよりに楽しみながら書いたのだという。
主人公は売れないロシア文学を訳しながらほそぼそと暮らしている男である。それまでの人生で幾たびもひとりのファム・ファタール(運命の女性)に翻弄されてきた。だが、懲りずになおもその思い出に心をときめかせるのである。彼を翻弄するバッド・ガールは、時代ごとにどんどん変貌をとげる。革命の女闘志からフランスの外交官夫人へ。さらに金満家の妻へ。しまいにはマフィアの情婦……。そのたびに主人公の前に現れては、彼を夢中にさせ、またいつの間にかどこかへ消え去ってしまう。
そうした四十年にわたる関係が悲哀とユーモアをこめて描かれる。物語はペルーのリマにはじまり、六十年代のパリ、七十年代のロンドン、八十年代のマドリードへと移っていく。五月革命のパリや、パンクのロンドン、モビーダ(独裁者フランコ死後に花開いたアンダーグラウンド・カルチャー)のマドリードが描きだされる。二十世紀後半の社会や文化が大きなうねりを見せ、価値観やモラルや生き方そのものが変転した時代だ。
そうした新しい時代のラブストーリーを描きたかったのだリョサはいう。恋愛は文学にとって古い主題であり、そこに独創性や新鮮さを注入できるかどうかは、作家にとってひとつの挑戦である。リョサは時代が動いた現場に居合わせた幸運と、彼を引きつけるある種の淫靡(いんび)なエロスを手だてにこれに挑んだ。リアリティにいまひとつ欠けるが、エロスは夢想だからいたしかたないかもしれない。 (「北海道新聞」2006.6.13) |
日本では翻訳がでているのでしょうか?違う名前かな。最近作でいうと池上夏樹個人編集の『楽園への道』ということになりますが、違うようです。
楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)
【追記】
バルガス=リョサ、ノーベル文学賞受賞 - Cafebleu Diary↑ ここに情報がありました!作品社からでるようです。
posted by ブラックコーヒー at 13:28| 埼玉 ☁|
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